最新ファッション: サステナビリティと e コマースローカリゼーション
この一年間、どの業界でも困難を強いられてきました。日常が取り戻せる業界もある一方で、いまだに転換を続け、以前のように戻ることのない新しい世界で生き残るための調整が続いている業界もあります。リテール、特にファッションブランドにおいては、世界中の人々の衣服に関する習慣に変化が生じたため、コロナの影響が残る見込みです。幸いにも、この新たな世界に合わせ考え方を変えられるリテールアパレルブランドは、今後も業績を上げていくことができます。
予算の減少と中古品の増加
新型コロナウイルス感染症が流行し始めてから、世界中の人々が必要不可欠ではないものに以前ほどお金をかけなくなりました。それにより、特に高級ブランドは大きな打撃を受けています。その原因は単純に、消費者の財布の事情が厳しくなったことです。失業率が上がり、消費意欲が下がっているのです。
同時に、自宅で過ごす時間が増えたことで、所持品を減らす動きも出ています。自由な時間をパンを焼いたり、編み物を覚えたりしたして過ごした人もいれば、整理整とんに当てた人もいました。たとえば英国では、5 世帯中 2 世帯が余計なものを処分しました。これにより、Vinted や eBay などの中古品を扱う店舗やサイトの品揃えが急激に増えました。2020 年と 2018 年を比較してみると、eBay の中古品の販売数は 10 倍以上に増え、デザイナーブランドの古着に関しては 200 倍近くも増えました。
地元のビジネスのサポート
困難が訪れた際に一丸となって対処するのが、コミュニティというものです。今年小規模な小売店が大きな打撃を受けたのを見て、消費者は積極的に地元で買い物をするようになりました。オンラインショッピングの利用が増えている一方で、近所や地元の経済を支えようという動きも出ています。
サステナビリティについて考える
ファストファッション、つまり安い服を買って次々と新しいものに替えることが環境にとても悪いのは言うまでもありません。ファッション業界による環境への悪影響の例としては、ほとんど着ていない服の廃棄、合成素材から出るマイクロプラスチックによる海洋汚染、世界の産業水質汚染の 20%、世界の二酸化炭素排出量の 10% などが挙げられます。
また、安い服を作るには製造者への賃金を減らす必要があり、衣料品メーカーは今年厳しい状況に追いやられました。たとえば、コロナが流行し始めたころ、ファッション企業はすでに生産が開始している何十億ドル分もの注文をキャンセルしました。4 百万人以上の低賃金労働者が衣料品業界で働いているバングラデシュのような国々では、このようなキャンセルによりコロナよりもさらに深刻な人道的危機が起こりました。
通常であれば、悪い知らせを聞いたとしても長年の習慣はなかなか変わるものではありません。ところがコロナの影響により日常生活ががらりと変わり、多くの消費者がこれを機に習慣を変えました。外出の頻度が減ったため服も少なくて済み、衣服がどこでどのように生産されているのかに気を配る余裕が生まれました。複数ブランドによるリサイクルプログラムの一環として行われた L’Oreal 社の Hong Kong Green Beauty Consumer Survey では、消費者の 70% が環境問題に対しより真剣に考えるようになり、プラスチックの使用量を減らすことにより積極的に取り組む意思があると答え、2019 年に行われた Hotwire 社による調査では、世界中の 47% の消費者が自身の価値観に反したブランドの製品やサービスの利用をやめたことがわかりました。消費者からのメッセージは明確です。ファストファッションの時代は終わり、サステナブルファッションの時代が訪れたのです。
ソリューション: ローカリティとサステナビリティ
消費者によるローカルでサステナブルなファッションに対する注目が高まる中、リテイラーは時の流れとともに変わったことを示さなければならなくなりました。倫理の基準の高まった新たな消費者基準を満たしていることが証明できるリテイラーは、消費者意識の高まった世界でも業績を上げることができます。
ローカルであるということは、必ずしも顧客の地元に店舗を構えているということではありません。重要なのは、消費者にコミュニティの一部であると考えてもらうことです。そこで、オンラインに掲載する内容をローカライズすることが今まで以上に重要になっています。e コマースはコロナ前からすでに急速に成長していましたが、コロナによりさらに拍車がかかりました。さまざまな会場でのイベントが中止になる中、ファッションウィークはすべてデジタルで行われ、リテイラーも e コマースローカリゼーションを最適化しその流れに乗る必要が出てきました。
e コマースローカリゼーションでローカルに
e コマースローカリゼーションは製品自体から始まります。ファッションの場合、提供する製品が現地で魅力的なものであることを確認する必要があります。各地域の気候や文化によって顧客の求めるものは変わり、サイズの基準も市場によって異なる可能性があります。どの製品を提供するかを決めるには、リテイラーがオーディエンスをよく理解する必要があります。それにはローカル SEO リサーチが役立ちます。顧客が使用する検索語を把握することで、発見されやすくなるだけでなく、現地の人々にとって何が重要かの手掛かりにもなります。
提供する製品を決めたら、現地市場向けのウェブサイトを作ります。ウェブサイトローカリゼーションはディテールがすべてです。流暢な言葉、文化的に共感できる製品説明、便利な支払、返品、問い合わせ方法はすべて、お客様に製品を見つけてもらって購入を決めてもらうに至るまでの過程をスムーズにする要素です。
e コマースローカリゼーションの最終ステップは、マーケティングです。お客様がどこにいるのかを見つけなければなりません。たとえば、ここ数年間 Christian Dior 社は、光棍節などの中国独特のショッピングシーズンを活用し、幾度にもわたり中国の WeChat メッセージングプラットフォームの新機能を使用した初の高級ブランドとなりました。これらのローカリゼーションの取り組みにより、2020 年前半には 2,160 万ドルの収益を記録しました。
サステナビリティに関するコミュニケーションのローカリゼーション
気候の変化や人権が国際的な問題として取り上げられていますが、これらに関するコミュニケーションはいまだにローカリゼーションが必要な状態です。他のどの大規模なローカリゼーションの取り組みに対しても言えることですが、その第一歩は言語からです。たとえば、Hugo Boss 社のウェブサイトにはサステナビリティへの取り組みに関する専用ページがあります。このページはドイツ語と英語の両方で閲覧でき、同社の価値観、成果、目標などが明確に記載されています。同様に、Ferragamo 社のサステナビリティページは 8 か国語に翻訳されており、過去 7 年間に取られた具体的な措置がタイムライン付きで公開されており、同ブランドのサステナビリティへの取り組みについてカテゴリー別に掲載されています。このような情報は、企業が素材や生産過程、従業員、周りのコミュニティに対し配慮していることの証になります。
しかし、どのローカリゼーションにも共通して言えることですが、サステナビリティに関するメッセージを伝えるには、翻訳だけでは不十分です。企業のサステナビリティに対するコミットメントを示すうえで最も広く認識されている手段の 1 つが、認定です。Fairtrade、Rainforest Alliance、Global Organic Textile Standard など、広く知られている基準の多くは国際基準ですが、オーストラリアでは主に現地の GECA ラベルが、米国ではエネルギー消費量に関するいくつかの国内のエコラベルが使用されており、アセアンでは現在独自の基準を開発中で、EU ではその他 13 種類以上の認定基準が使用されています。
サステナビリティ自体のローカル性
企業のコミュニケーション方法を問わず、サステナブルファッションにおけるそれぞれの要素の重みは、世界中の各市場によって異なります。リテイラーが各地域で成功を収めるには、それぞれの地域でどのような取り組みが最も有意義であるかを理解する必要があります。ターゲット市場の気候、文化、歴史などにより、何に重要性が置かれるかが変わってきます。
これは倫理的な労働慣行にも言えることです。たとえば、Selfridges 社のデパートが 2020 年 3 月に閉店した際、同社は従業員への給与の支払いを継続することを発表しました。英国の大企業である同社にとって、現地の従業員の生活を守ることは重要でした。また、米国では BLM 運動が盛んになり、Anthropologie 社などの企業の広告や雇用においてダイバーシティが欠けていることに注目が集まりました。米国の消費者の人種差別への意識が高まり、倫理的対応と公平な社会参加の機会が求められる中、これらの企業には雇用およびマーケティング慣行の転換が求められています。
事業分野を超えて
消費者からの購入する製品やサービスの内容に対する注目が今まで以上に高まっています。しかしそれと同時に、どのような企業から購入しているのかにも大きな注目が集まるようになりました。CEO が人種差別や同性愛嫌悪を示唆する発言をした企業からは、たとえその価値観が製品や製造過程に無関係であったとしても、顧客は離れていきます。一方、貢献が求められている分野に貢献しているブランドは、その貢献と製品に関連性がなくてもリピート客を得ています。たとえば、Gucci 社の Chime for Change プログラムは、アフリカとアジアでの教育を支援し、Cartier 社の Women’s Initiative は世界中の女性起業家を後押ししています。
世界に貢献することで企業も発展
倫理とエコロジーの面でサステナブルなビジネスモデルを確立するのは賢明なことです。また、長期的に見て財政的に持続可能な唯一のオプションでもあります。どの業界の企業にとっても、サステナビリティに向けた取り組みと、顧客の話す言語でその取り組みについて伝え、自社の活動をサポートすることは欠かせません。
これらのステップはどちらにもローカリゼーションが必要となります。事業を展開している市場でどのようなサステナビリティプログラムが最も重要かを判断したら、そのメッセージを広めるための最善の方法を見つけましょう。